病原性大腸菌「O-157」・「O-111」

特集 No.115 2011年7月発行

無題ドキュメント
 新聞やTV で食中毒のニュースを見かける季節になりました。
 今月号では食中毒の中でも最近よく聞く「O-157」、「O-111」について特集します。

 大腸菌は健康なヒトの大腸内にも存在し、ほとんどは無害な微生物です。しかし、なかには下痢を起こすものがあり、それらを「病原性大腸菌」と呼んでいます。
 病原性大腸菌には4 種類あり、そのうちの1 つで血液の混じった下痢をおこすものを「腸管出血性大腸菌」と呼びます。「O-157」や「O-111」 はこの腸管出血性大腸菌の代表的な細菌です。

特徴
   感染力が非常に強く、100 個程度の菌が体の中に入っただけで病気を起こしてしまいます。(多くの食中毒では100 万個以上の菌が体に入らないと食中毒は起きません。)
 酸性に強く、胃の酸にも負けずに大腸にたどり着き、増殖します。「ベロ毒素」という強い毒素を出し、腸が水分を吸収できなくしたり、血管を破壊したりするため、出血性の下痢が起こります。また、低温にも強く、冷凍庫の中でも生きています。


感染経路
   家畜(牛、豚、羊など)の大腸をすみかとし、家畜の糞尿で汚染された水、食肉、生野菜などから感染します。
 肉自体に菌は存在しませんが、解体する際に内臓から出た菌が肉の表面に付着して食中毒を起こす事があります。肉を焼きながら食べる時は、専用の箸で焼き、口に入れる箸とは区別しましょう。感染力が強いため、感染した人から人へも感染します。(二次感染)


潜伏期間
   潜伏期間は2~9日間で他の食中毒と比べて長いです。(例えば、サルモネラ菌は5~72時間、黄色ブドウ球菌は30分~8時間)
  そのため、どの食事が原因だったのか特定が難しくなる事が多くあります。


症状と経過
 

 激しい痛みを伴った水様便(水っぽい下痢)が頻回に起こり、まもなく血便(血の混ざった便)になります。吐き気や嘔吐を伴うこともありますが軽症です。熱が出ても一過性で、高熱にならない事が多い様です。
 大人の場合は感染しても、無症状だったり、軽い下痢で終わる事があります。症状が治まっても便にはまだ菌が混じっているので、家族などに感染を広げない様に気をつけましょう。
 特に抵抗力の弱い乳幼児や高齢者の方は十分注意が必要です。
 まれに重症化し、溶血性尿毒症症候群(HUS)や、急性腎不全、脳症などを起こすことがあります。これらは治療が難しく危険な状態です。


・溶血性尿毒症症候群(HUS)…
 顔面蒼白、倦怠感、尿量減少、むくみ、さらには、傾眠(うとうとする)、幻覚、けいれんなどの症状が現れる。
 下痢、腹痛が起きてから、数日~2週間後に起こる。
 検査では赤血球が壊れ貧血になる、血小板が少なくなり出血しやすくなる、腎臓の働きが低下する、などが確認される。

・脳症…
 頭痛、傾眠、不穏(落ち着かなくなること)、多弁(口数が多くなること)、幻覚などが予兆として起こり、数時間~12時間後にけいれん、昏睡が始まる。

予防方法
 

1.加熱
 これらの菌は熱に弱く、75℃1分間の加熱で死んでしまいます。肉などは食べる前に加熱しましょう。電子レンジでの加熱は、熱の通りにむらがないか注意しましょう。

2.冷所保存
 暖かくて(30~40℃)水分と栄養分があると、菌はどんどんふえます。
保存は冷蔵庫か冷凍庫にいれましょう。ただし、菌は低温に強いため生きています。食べる前には加熱しましょう。

3.消毒
 これらの菌は消毒に弱く、アルコール消毒、塩素消毒などで死んでしまいます。まな板、包丁、ふきんなどの調理器具は十分洗浄し、消毒しましょう。

4.洗浄
 土の中には水や栄養分があり、高温(75℃以上)になることがないため菌が生き続けています。生野菜は十分水道水で洗いましょう。日頃からしっかり手洗い、消毒をする習慣を身につけましょう。

薬剤師 高倉 裕美