原発事故と健康被害

特集 No.125 2013年5月発行

東日本大震災によって地震による災害だけでなく、同時に福島原発の事故が発生し、甚大な被害を受けました。今も復興・再建の最中ですが、今回は放射線の健康被害について勤医協中央病院放射線部の柏樹力さん(診療放射線技師)のご協力も頂いて、質問形式でまとめました。

放射線による人体への影響はどうでしょうか?

人体は放射線をあびると、その透過力(物をすり抜ける力)と電離作用(細胞中の分子の電子をはじき飛ばしてしまうこと)によって細胞がこわされたり傷つけられたりする影響を受けます。その影響の程度は放射線の線種(主にα、β、γ線)の違いや放射線の持つエネルギー量、外部被ばくか又は内部被ばくかによっても異なります。

どのレベルまでが安全なのかについては解明されていません。特に低線量の内部被ばくの影響については、いろいろな意見があり良くわからない事も多いのです。

 

内部被ばくはどうして問題になるのですか?

内部被ばくとは、経口摂取などで体内に取り込んだ放射性物質が体に残っている間に出す放射線から被ばくすることです。一度体内に取り込まれた放射性物質は取り除く事が出来ず、体外へ排泄されるまでの長い期間に放射線を出し続け、まわりの細胞や粘膜を傷つけてじわじわと体をむしばんでいきます。「低線量被ばくなら安全」と言われるのは外部被ばくの場合だけで、内部被ばくでは成り立ちません。最近の研究では、内部被ばくは低線量でも長時間被ばくするため外部被ばくとは比べられない程の大きな影響を受けると言われています。

 

 

原発事故で発がんの予防に安定ヨウ素剤は有効ですか?

1986年のチェルノブイリ原発事故後に子供たちの甲状腺がんが急増しました。これは規制されなかった牛乳に含まれていた放射性ヨウ素が原因と考えられています。初期被ばくで大気中に放射性ヨウ素が放出された場合は、被ばく前の24時間以内または被ばく直後に安定ヨウ素剤を服用すると、甲状腺がん発症の予防が期待出来ます。これは安定ヨウ素剤が放射性ヨウ素の甲状腺への集積を90%以上減らすためです。原子力安全委員会の提言によると、服用対象は40歳未満の方で、特に乳幼児や妊婦の服用が優先されます。服用回数は原則1回です。従って原発事故が発生した時は放射性物質が拡散した情報が正しくかつ素早く提供され、自治体が安定ヨウ素剤を備蓄して正しく配布することがとても重要になります。
 
原発事故後、自然環境の放射能汚染は広い範囲に及び、完全終息には長い時間を要します。今後どのような健康被害が現れるか長期間にわたって観察し、二度と原発事故を起こさないためにはどうしたら良いか考えていきましょう。


年齢によって放射線から受ける影響に違いがありますか?

男の子と赤ちゃん成長過程にある乳幼児や小児、児童は細胞分裂や代謝が活発なため、放射線に対する感受性が高く健康被害も大きい事が確認されています。乳幼児期では20歳~30歳代の大人と比べて、同じ被ばく量で放射線の感受性が約4倍に高まると言われています。広島・長崎の原爆被害者調査結果でも被爆した時の年齢が低いほど、発がん率は高くなっています。

(薬剤師 田宮 雅子)