貧血

特集 No.84 2006年発行

貧血とは…
 血液中の赤血球や赤血球中のヘモグロビンが減少して、酸素を体の細胞に十分に送ることができない状態をいいます。ヘモグロビンは鉄とたんぱく質からできた赤い色素で赤血球中にたくさん存在しており、酸素と結びつきやすい性質をもっています。
貧血の目安
ヘモグロビン濃度 ヘマトクリット
成人女性 12.0g/dl 未満 36%未満
成人女性(妊婦) 11.0g/dl 未満 33%未満
成人男性 13.0g/dl 未満 39%未満
*ヘマトクリットは一定量の血液中に存在する赤血球の割合を示します。
原 因
  赤血球・ヘモグロビンの生産量の不足
  栄養素(鉄・葉酸・ビタミンB12 など)不足(鉄欠乏性貧血・悪性貧血)
血液をつくる骨髄の異常(再生不良性貧血など)
赤血球の生産を刺激するホルモンの不足(腎性貧血)
  赤血球・ヘモグロビンの消失量の増大
  大量の出血
  免疫の異常などによる赤血球の破壊(溶血性貧血)
  他の病気によって起こる貧血(二次性貧血)
  ●リウマチなど
症 状
  貧血になるとさまざまな症状がみられます。これは、体の酸素不足や酸素不足を補うための体の働きにより起こります。原因が鉄・葉酸・ビタミンB12不足の場合は、特徴的な症状がみられることもあります。
  主な症状
  めまい、たちくらみ  ●心臓がどきどきする(動悸)  ●動くとすぐに息が切れる
顔が青白い  ●だるい、疲れやすい  ●頭痛、眠気  ●注意力・集中力の低下
耳鳴り
  鉄、葉酸、ビタミンB12の不足による特徴的な症状
  爪がへこみ反り返る  ●舌が荒れる(舌炎)  ●口のわきが切れる(口角炎)
治 療
 貧血の原因にあわせた治療が大切です。主な薬物治療を紹介します。
 
鉄欠乏性貧血 鉄剤の服用
*服用1 ~ 3 ヶ月でヘモグロビン値は回復するが、貯蔵鉄(主に肝臓に蓄えられる鉄)が十分回復するまでさらに3~6 ヶ月続ける必要がある。
悪性貧血 ビタミンB12の注射、葉酸の服用
再生不良性貧血 免疫抑制剤(シクロスポリン、抗胸腺細胞グロブリンなど)
*免疫反応を強力に抑える。
蛋白同化ステロイド
*赤血球の生産を促す。
腎性貧血 エリスロポエチン製剤
*主に腎臓でつくられるホルモン。赤血球の生産を促す。
自己免疫性溶血性貧血 副腎皮質ステロイド
*免疫反応を抑える。
予 防
 予防でもっとも大切なのは、赤血球・ヘモグロビンに必要な栄養素を食事から摂ることです。鉄には、動物性食品に含まれる吸収の良いヘム鉄と、植物性食品に含まれる吸収が比較的劣る非ヘム鉄があります。しかし、非ヘム鉄でもビタミンC の多い食品(柑橘類、いちごなど)や動物性たんぱく質(牛乳、卵、魚など)と一緒に摂ることで吸収が良くなります。
鉄・葉酸・ビタミンB12 を豊富に含む食品には、以下のようなものがあります。うまく組み合わせて、バランスのよい食事をしましょう。
  鉄(一日所要量:成人女性12mg 成人男性10mg 妊婦・授乳婦20mg)
  いんげん豆(6.0mg)・納豆(3.3mg)・豚レバー(13.0mg)
鶏レバー(9.0mg)・アサリ水煮(37.8mg)・いわし丸干し(4.5mg)
大根の葉(3.1mg)・小松菜(2.8mg)
  葉酸(一日所要量:成人女性・男性200μg 妊婦400μg・授乳婦280μg)
    鶏レバー(1300μg)・牛レバー(1000μg)・菜の花(340μg)
モロヘイヤ(250μg)・アスパラガス(190μg)・いちご(90μg)
  ビタミンB12(一日所要量:成人女性・男性2.4μg 妊婦・授乳婦2.6μg)
  しじみ(62.4μg)・牛レバー(52.8μg)・サンマ(17.7μg)
    *( )内は100gあたりに含まれる栄養成分の量
  薬剤師 宮本 牧子

妊婦は葉酸を取るようにと聞きますが、なぜですか?

妊婦は葉酸を取るようにと聞きますが、なぜですか?

 妊娠すると、鉄や葉酸の必要量が増え、貧血を起こしやすくなります。貧血を起こさないためにも葉酸の摂取は大切です。また、葉酸は赤ちゃんの成長にも非常に大切な栄養素で、体の細胞の発育・働きを正常に保つ働きがあります。最近では、妊娠初期に葉酸が不足すると、脳や脊椎をつくるもととなる部分に障害が起きやすくなると言われています。日頃からバランスの良い食事をすることが大切です。
                                                  薬剤師 宮本 牧子