禁煙を成功させる為に

特集 No.89 2007年発行

 日本人の健康に対する関心は並々ならぬものがあります。しかし、どんなに健康に気を使っていても1 本のタバコが全ての努力を水泡に帰してしまいます。なぜなら、タバコはニコチンをはじめ、約200種類の有害物質と約40種類の発ガン物質を含んでいて、肺がんや心臓疾患、脳血管障害など非常に多くの病気の原因になったり、病気を悪化させることがはっきりしてきたからです。またタバコの煙にはフィルターを通して喫煙者が吸う「主流煙」と、フィルターを通さずに、直接空気中に流れる「副流煙」があり、副流煙の方がより有害であることが分かっています。そのため、タバコを吸わない人でも、喫煙者と同じ空間にいることで、副流煙を吸い込んでしまう「受動喫煙」による健康被害が深刻化しています。
「禁煙したいけど禁煙できない」そんな人に朗報
   2006 年3 月から「健康増進法」が施行され病院や役所、乗り物、飲食店その他多くの人が利用する施設に「禁煙」や「分煙」が義務づけられ禁煙の動きが広まってきています。また、タバコの価格もどんどん上がり、経済面での圧迫も大きくなってきました。「今こそタバコの止め時!」と思っている人も多いかもしれません。

今までも、全額自己負担による病院での禁煙治療は行われてきましたが、2006年4月に診療報酬が改定になり、禁煙治療の費用が保険の適用とされることになりました。
つまり喫煙は治療の対象になる病気「ニコチン依存症」として捉えられるようになったのです。
禁煙できないのはなぜ?
 喫煙者の実に60 %は禁煙が必要だと思っているそうです。
ではなぜ禁煙できないのでしょうか?それは喫煙により、タバコに対しての薬物依存である「身体的依存」(いわゆるニコチン中毒:禁煙するとイライラしてしまう原因)と「心理的依存」(吸わないでいると口元がさびしくなる、手持ちぶさたになる)が起こっているからです。
禁煙を試みた人の約10 %しか成功していないのは、主に身体的依存によるものです。
禁煙治療が保険適応になる条件
   禁煙治療を保険で受ける為には、いくつかの条件を満たしている必要があります。
 
1.問診によるテストでニコチン依存症と診断された人。
2.喫煙指数(1日の喫煙本数×年数)が200以上になる人。
3.すぐに禁煙を希望し、禁煙治療プログラムについての説明を受け、参加について文書で同意した人
 これらの3 つに当てはまる人の禁煙治療が、保険の対象として認められます。
治療に使われる薬
   タバコに対しての薬物依存には「ニコチン代替療法」という方法が効果的です。これはタバコ以外からニコチンを取り入れることで、タバコを止めたときに出るイライラなどの禁断症状を抑えて、禁煙を補助する治療法のことです。とくに病院では「ニコチネルTTS」という薬が使われます。
ニコチネルTTS とは
   ニコチネルTTS は貼り薬で、ニコチン切れの症状を起こさない程度の量のニコチンを、皮膚から体内に送り込み禁断症状を抑えます。また、薬の量を少しずつ減らしていくことで、徐々にニコチンの少ない状態に体を慣れさせ、禁煙を補助する薬です。

使用中に皮膚のかぶれ、動悸、吐き気、不眠などの症状が出ることがあり、注意が必要です。また使用中にタバコを吸うと体の中のニコチンが増えて、気分が悪くなったり、動悸が出やすく危険ですので、吸ってはいけません。
 タバコを止めたくても止められない人は一度「ニコチン代替療法」を試してみてはいかがでしょうか?

 保険での禁煙治療は、どこの病院でも行えるというわけではありません。
 また、保険で禁煙治療ができない病院でも、自費での「ニコチン代替療法」を行うこともできるので、受診する前に病院に確認してみましょう。

禁煙に成功した人の多くは3 ~ 4 回の挑戦を経験して成功にいたるようです。一度失敗しても自己嫌悪に陥らず、繰り返しチャレンジしてみましょう。
  薬剤師 井上 祐樹

市販されているニコチンガムとはどのようなものですか?

市販されているニコチンガムとはどのようなものですか?

 ニコチン代替療法に使われる医薬品のひとつです。口腔粘膜からニコチンを吸収させて、禁煙によるイライラ・落ち着かないなどの症状を緩和します。
1日の使用数を決めて、タバコを吸いたくなったときに使用し、少しずつ減らしていきます。使用期間は3ヶ月までを目安とし、漫然と使用しないようにしましょう。
 

 通常のガムとは異なり、ゆっくりと15回ほどかみ、ほほと歯ぐきの間に1分以上おき、これを30~ 60分繰り返します。ピリピリとした刺激や辛味を感じるため、ミント味などで和らげたものもあります。

 医師の処方箋が無くても薬局で購入できますが、病気や服用中の薬に影響を及ぼすことがあるので、まず医師や薬剤師に相談してから使用されることをおすすめします。
                                               薬剤師 棚橋 聡子