妊娠と薬の話

特集 No.91 2007年発行

 妊娠中に赤ちゃんはお母さんから胎盤を通して栄養や酸素をもらって成長していきます。胎盤はそれだけでなくお母さんが口にしたお酒やたばこ、そして薬も運んでゆきます。ですからお母さんが薬を飲んだときは赤ちゃんも一緒に薬を飲んでいると考えたほうがよいでしょう。
1960年代には新薬のサリドマイドが安全な睡眠・鎮静剤として妊娠初期のつわりや不眠のために使用され、生まれてきた赤ちゃんの手足に重い障害が出るという『サリドマイド事件』がありました。この事件でサリドマイドの販売は中止されましたが、「薬害」として大きな社会問題となりました。
同じ薬でも妊娠の時期によって赤ちゃんに与える影響は大きく違います。妊娠中にどの薬が安全で、どの薬が赤ちゃんに障害を起こす可能性があるのかを正確に知ることはとても難しいことです。
 今日ではたくさんの経験とデータをもとに、薬自体の持つ危険度と妊娠時期の危険度の両方から考えられており、妊娠中に安全といわれている薬も多くあります。妊娠中のお母さんの健康のために薬が必要な時があります。おなかの赤ちゃんにおよぼす影響が心配で薬を飲むことをためらう方がいますが、必ず医師に相談して安全性の高い、お腹の赤ちゃんに影響の少ない薬を処方してもらいましょう。
妊娠の各時期における薬の影響について表で見てみましょう。
妊娠時期による薬の危険度
 
服用時期 妊娠週数
(妊娠月数)
服用上の注意
無影響期 妊娠3週末まで
(妊娠1ヶ月)
赤ちゃんへの薬の影響は基本的にありません
絶対過敏期 4週~7週末まで
(妊娠2ヶ月)
赤ちゃんの中枢神経系や心臓、手足、脳などの重要な部分が形成されます
一番注意が必要な時期で止むを得ない場合以外、薬は飲まないようにしましょう
相対~
比較過敏期
8週~15週末まで
(妊娠3~4ヶ月)
性器、口蓋などが形成されていきますが完成されず、まだまだ注意が必要です。医師と相談し薬は必要最少量で最短期間にしましょう
潜在過敏期 16週~分娩まで
(妊娠5~10ヶ月)
大部分の薬は母乳への移行はわずかな量になるため害は少ないと言われていますが、医師に授乳中であることは伝えておきましょう
授乳期   この時期は奇形の心配はなくなりますが、発育や機能を抑制する危険のある薬があります。安全な薬を医師に選んでもらいましょう
  薬剤師 田宮 雅子

妊娠と気づかずに風邪薬を飲みました。 大丈夫でしょうか?

妊娠と気づかずに風邪薬を飲みました。 大丈夫でしょうか?

 妊娠していることに気がつかないまま風邪薬や胃薬を飲んでしまう女性が多くいます。ほとんどの薬は妊娠に影響を及ぼすことが少ないですが、奇形を引き起こす危険性のある薬もあるので、妊娠と判ったらいたずらに心配せずに服用した薬とその時期を医師または薬剤師に相談して下さい。
 また妊娠中の女性が病気になった場合には、医師は胎児への安全性が高い薬を選択して治療します。妊娠イコール薬は禁止ということではなく、医師に相談して安心して治療しましょう。
                                               薬剤師 田宮 雅子