糖尿病の薬について

特集 No.156 2018年5月発行

最近新しい作用機序(薬が効き目を発揮するしくみ)の薬が発売され、治療の選択肢が増えました。

今回はその中から「血糖値が高いときだけ下げる」、「余分な糖分を尿とともに排出する」といった薬について紹介します。

DPP-4 阻害薬

DPP-4 阻害薬


DPP-4 阻害薬

食べ物が消化管に入ると、小腸の粘膜から、すい臓からのインスリン分泌を促進するホルモン(インクレチン)が分泌されます。
DPP-4阻害薬は、このインクレチンを分解する酵素(DPP-4)の働きを抑えてインクレチンを増やすことで、インスリンの分泌量を増やします。


食後(食べ物が消化管に入った時)にのみインスリンの分泌を増やすため、食前と食後のいずれの時間帯でも服薬できます。低血糖は起こりにくい薬で
すが、他の糖尿病の薬(下表参照)と併用すると重篤な低血糖が起こる事が有り、特に注意が必要です。

SGLT2 阻害薬

SGLT2 阻害薬

SGLT2 阻害薬

腎臓の尿細管にあるSGLT2というたんぱく質には、原尿(尿の元)からブドウ糖を体内に再吸収する作用があります。SGLT2阻害薬はこのSGLT2の働きを抑えて、体内に戻るブドウ糖の量を減らし、尿中へ過剰なブドウ糖を排出することで、血糖を低下させる薬です。ブドウ糖と共に水分が尿中に排出されるため、頻尿や脱水などには注意が必要です。


尿中に糖が多くなるため、尿路感染症や膣カンジダなど、性器感染症の発症リスクが高くなります。服用中は陰部を清潔に保つことも必要です。

また、水分は多めに摂るように心がけましょう。

GLP-1 受容体作動薬

GLP-1 受容体作動薬

GLP-1 受容体作動薬

すい臓のβ細胞のGLP-1受容体に結合することで、インスリンを分泌させる注射薬です。1日1~2回、皮下注射します。胃の動きを抑える作用もあり、副作用として胸のむかつき・吐き気があります。この副作用を抑えるために、使い始めは投与量をゆっくり増加させることが必要です。

単独では低血糖が起こりにくい薬剤ですが、他の糖尿病の薬(下表参照)と併用する時には低血糖に注意が必要です。

最近の糖尿病の治療薬の傾向

最近の糖尿病の治療薬の傾向

糖尿病の治療薬には様々な種類が有り、投与方法やタイミングもそれぞれの薬によって違いが有ります。この為、複数の薬を使用する場合、飲み方が
複雑になる場合が有ります。そこで、複数の効果を1つの薬にまとめることで、服薬や使いやすさの向上を目的とした薬も開発、販売されてきています。


例えばインスリン注射薬では、長時間作用型のインスリンと超速効型インスリンを組み合わせ、1日1回打つことで1日の血糖を平均的にコントロール
出来るように作られた薬が有り、高齢者や介護が必要な方でも使いやすくなっています。
この注射薬は、従来の混合型インスリンと違って、使用前に「10回以上ふりまぜて使用する」という操作をしなくて良いというメリットも有ります。

 

 

糖尿病の治療に使われる薬

のみ薬

主な働き薬の分類特徴
インスリン抵抗性を改善するビグアナイド薬筋肉などで糖の利用を高め肝臓からのブドウ糖の放出を抑えて、血糖値を下げる。
チアゾリジン薬脂肪組織の質を変えることで、インスリンの働きを悪くする物質の分泌を抑える。
インスリンの分泌を促す速効型インスリン分泌促進薬効果がすぐに現れて、すぐに消える。食後の血糖値が高い人に適している。
スルホニル尿素薬すい臓に作用して、インスリンの分泌を増やす。血糖値の高低に関係なく効く。
DPP-4阻害薬食後血糖値が上昇するときだけインスリンの分泌を促進する。
そのほかα-グルコシダーゼ阻害薬小腸に作用し、体内に入った糖質がブドウ糖に分解される速度を遅くする。
SGLT2阻害薬腎臓に作用し、血液中の過剰なブドウ糖を尿中に排出し血糖値を下げる。

 

注射薬

主な働き薬の分類特徴
インスリンの分泌を補うインスリン製剤すぐに効くタイプや、長時間緩やかに効くなど大きく6つの種類があります。
インスリンの分泌を促すGLP-1受容体作動薬すい臓に作用し、インスリンの分泌を促す。DPP-4阻害薬と似た作用だがさらに強力。

 

最近、以前より血糖値が高くても大丈夫と言われる事が有るのは何故ですか?

最近、以前より血糖値が高くても大丈夫と言われる事が有るのは何故ですか?

2016年5月、日本糖尿病学会と日本老年医学会は、糖尿病の高齢者がめざすべき血糖管理の目標を新しく定めました。65歳以上の高齢者は一人一人の健康状態、認知機能や日常生活動作(ADL)などに応じて少しゆるめの目標に変更されました。


認知機能・ADL(日常生活動作)

重症の低血糖が心配される薬の使用がなしの場合
正常少し低下低下(要介護)
7.0% 未満7.0% 未満 8.0% 未満
重症の低血糖が心配される薬の使用がありの場合
正常少し低下低下(要介護)
65~74歳
7.5% 未満
下限 6.5%
75歳以上
8.0% 未満
下限 7.0%
8.0% 未満
下限 7.0%
8.5% 未満
下限 7.5%

 

高齢者の目標をゆるめた最大の理由は、低血糖を防ぐことにあります。
高齢者は薬を分解する肝臓や、薬を排せつする腎臓の働きが低下するため、血糖を下げる薬が効き過ぎて低血糖を起こしやすくなるのです。

しかも、自律神経や認知機能が低下している場合は低血糖に気づきにくくなります。高齢者が重い低血糖を起こした場合、心筋梗塞・脳梗塞、認知機能低下、転倒・骨折などのリスクが高まります。低血糖には十分気を付けましょう。 

(薬剤師 廣奥  智恵)

※記載された情報は発行日時点の情報です。
ご覧になった時点と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。