加齢と腎機能低下

特集 No.177 2021年11月発行

加齢と腎機能低下

加齢と腎機能低下

個人差はありますが、加齢とともに誰しも身体の生理機能が低下していきます。
筋力の低下や心臓の機能、呼吸機能、消化機能の低下などは自覚しやすいですが、腎臓の機能は気が付かないうちに進行していき、80歳代では30歳代に比べて半分くらいに低下するといわれています。

腎臓の機能が低下するとどんなことが起こるのでしょうか

腎臓の機能が低下するとどんなことが起こるのでしょうか

腎臓は体の中の老廃物を体の外に排泄するという重要な働きをしています。

腎臓の働きが低下すると水分・塩分・老廃物などが体内にたまるので、血圧が上昇し、体内のさまざまな物質のバランスが崩れます。


また、服用した薬が体内から排泄されるのが遅くなり、体の中に蓄積され、副作用が出やすくなる可能性も出てきます。

腎臓の機能を知るには?

腎臓の機能を知るには?

血液検査の血清クレアチニン値(S-Cr)の上昇や推算糸球体濾過量(e-GFR)の低下などで腎機能の程度を知ることができます。

腎臓の機能が低下すると血液中のたんぱく質が尿に漏れ出してくることが多いので、尿検査で尿たんぱく陽性も参考になります。


浮腫みや血圧上昇などの自覚症状が出た時には、腎臓の機能低下がかなり進行していることが多いので、定期的に血液検査を受けることが早期発見のために重要となります。

複数科に受診している人は注意が必要

複数科に受診している人は注意が必要

高齢になると、さまざまな症状が出てきて、内科・整形外科・耳鼻科・泌尿器科・皮膚科など複数の科に受診し、それぞれの病院で薬が処方されるということは珍しいことではないと思います。

このようなケースでは、似たような効果の薬が重複して処方されたり、薬同士の相互作用で作用が強まったり、副作用が出やすくなる可能性が出てきます。


また、腎機能が低下している場合減量した方がよい薬が、血液検査などで腎機能を確認しないまま健康な成人と同じ量で処方される可能性もあるので注意が必要です。

腎機能が低下している人には注意が必要な薬

腎機能が低下している人には注意が必要な薬

  • 腎機能が低下している人には注意が必要な薬

薬剤
薬品名の例
消炎鎮痛薬ロキソプロフェン、ジクロフェナクなど
痛み・しびれ止めプレガバリンなど
強心剤ジゴキシンなど
抗不整脈薬シベンゾリン、ピルシカイニドなど
抗血栓薬ダビガトラン(プラザキサ®)、アピキサバン(エリキュース®)、リバーロキサバン(イグザレルト®)など
糖尿病薬

グリメピリド、シタグリプチン(ジャヌビア®)メトホルミンなど

高尿酸血症治療薬アロプリノールなど
胃酸分泌抑制剤ファモチジンなど
排尿困難治療剤ジスチグミンなど
ニューキノロン系抗菌薬レボフロキサシンなど
抗ウイルス薬バラシクロビル、アシクロビルなど
高脂血症治療薬ベザフィブラート、フェノフィブラートなど

腎機能を低下させないため気をつけること

腎機能を低下させないため気をつけること

一旦低下した腎臓の機能を正常範囲まで回復させることはかなり困難ですので、現在の腎機能が低下しないように維持することが大切になってきます。
糖尿病・高血圧・脂質異常症・高尿酸血症などは腎機能の悪化を招きます。

これらの疾患を持っている人は、治療を継続し、悪化させないようにしておくことが重要です。


健康な人でも、脱水状態になると急激に腎機能が悪化します。

普段から十分な量の水分補給を心がけ、脱水状態にならないようにしましょう。
ただし、水分の過剰摂取や医師から水分制限を受けている人は注意が必要です。

整形外科などで処方されることが多い消炎鎮痛薬は高齢の患者さんでは腎機能の低下を引き起こすことがあります。
内服量、内服期間については担当医とよく相談するようにした方がよいでしょう。


定期的に血液検査を受けるという機会がない人は、1年に1回は健康診断を受け、自分の腎機能がどの程度かを知っておくことがいざという時のために大切です。

(薬剤師 在原 晶子)

血液検査の値がどのくらいで腎臓の機能が低下していると疑われますか?

血液検査の値がどのくらいで腎臓の機能が低下していると疑われますか?

血清クレアチニン値(S-Cr)が男性では1.0~1.2mg/dl、女性では0.8~1.0mg/dl以上、推算糸球体濾過量(e-GFR)が男性も女性も60ml/ 分/1.73m2未満だと腎機能低下が疑われます。

ただし、どちらの値も筋肉量の影響を受け、筋肉量の少ないやせた高齢者の軽度から中等度の腎障害では正しく評価できないこともあるので、詳しい検査が必要になる場合があります。


健康診断を受ける場合注意していただきたいことは、自治体の行っている『とくとく健診』や『後期高齢者健診』の「基本健診」の項目に腎臓の機能を知るための血清クレアチニン値(S-Cr)や推算糸球体濾過量(e-GFR)が組み込まれていません。(※自治体によっては基本健診に組み込まれています。)
「付加健診」の中にこれらの項目が入っているので、500円追加でかかりますが、ぜひ健診を受けるときは「付加健診」も一緒に受けることをお勧めします。

(薬剤師 在原 晶子)

※記載された情報は発行日時点の情報です。
ご覧になった時点と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。