血圧の薬の効き目

特集 No.186 2023年5月発行

高血圧症は日常診療で最も多く遭遇する病気で、患者は現在4300万人いると言われています。

高血圧症の治療の目的は脳心血管病の発症・進展・再発を抑制して死亡を減少させることにあります。

治療に当たっては生活習慣の改善が特に大切ですが、生活習慣の改善のみで十分に血圧が下がらず、薬を服用されている方も多いのではないでしょうか。


高血圧は血管の壁に強い圧力がかかっている状態です。

薬では、この圧力を減らすために血管に流れる血液の量を減らしたり、血管を広げたりします。
どのようにして血圧が下がるのか、血管と血液をホースと水でイメージしてみましょう。

  • ホースの太さで比較

    太いホースと細いホースがあったとき、流れる水の量が同じであれば細いホースのほうがより圧力がかかるため水が勢いよく流れ、太いホースのほうは圧力が少なく、水の勢いが緩やかになります。
    血管が収縮するのを抑えて血管を広げる薬はこのような働きで血圧を下げます。

  • 水の量で比較

    ホース(血管)に流れ込む水(血液)の量が多いとホースにかかる圧力が強まり水が勢いよく流れます。流れ込む水の量が少なくなるとホースにかかる圧力が弱まり、水の勢いも緩やかになります。
    心臓から送りだされる血液の量を抑える薬と循環する血液の量を減らす薬はこのようにして血圧を下げる効果があります。

  • 代表的な高血圧症の薬を紹介します。

血管が収縮するのを抑えて血管を広げる薬

Ca拮抗薬(カルシウム拮抗薬)

血管の収縮を抑えることで手足や心臓の血管を広げて血圧を下げる働きがあります。
血圧を下げる効果が比較的強い薬です。グレープフルーツなど飲み合わせの悪いものが多いので注意が必要です。

  • 代表的な薬:ニフェジピン、アムロジピン


ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

アンジオテンシンⅡという血圧上昇や心臓の肥大化や腎機能の低下を促進する物質が体内で作られるのを抑える働きがあります。
血圧を下げるとともに心臓や腎臓を保護する効果も期待されています。

副作用で咳が出ることがあるので、咳が続くようなことがあれば医師に相談してください。

また、妊婦には使えませんので妊娠の可能性がある方は医師に伝えてください。

  • 代表的な薬:エナラプリル、アラセプリル


ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)

アンジオテンシンⅡが体内で働く場所を抑えて血圧を下げます。
ACE阻害薬と同じように心臓や腎臓を保護する働きがあります。血圧を下げる働きはACE阻害薬よりも強いです。

妊婦には使えませんので妊娠の可能性がある方は医師に伝えてください。

  • 代表的な薬:カンデサルタン、オルメサルタン、ロサルタン

循環する血液の量を減らす薬

利尿薬

尿量を増やして余分な水分や塩分を排泄する働きがあります。
体内の水分量が減ると水分を含んでいる血液の量も減るため血圧が下がります。
余分な水分が減ることでむくみを改善し、心臓の負担を軽くする効果も期待できます。

  • 代表的な薬:トリクロルメチアジド、フロセミド、スピロノラクトン


β遮断薬(ベータ遮断薬)

心拍数を抑えることで血管内の血液量を減らして血圧を下げる働きがあります。
心臓の働き過ぎを抑えるので、頻脈性不整脈や狭心症などの合併症にも有効です。

  • 代表的な薬:アテノロール、ビソプロロール、カルベジロール



1つの薬で血圧が十分に下がらないときには働きが違う複数の薬を使うことがあります。

どの薬も治療に必要ですので医師の指示なく中止したりすることのないようにしましょう。

(薬剤師 石川 知樹)

血圧の薬は飲み始めたらやめられないの?

血圧の薬は飲み始めたらやめられないの?

減塩や運動などの生活習慣の改善によって、薬を中止しても正常な血圧が維持できるような状態であれば、減薬や休薬、中止といったことも行われます。血圧が高くても自覚症状がない場合も多く、薬を飲まなくても大丈夫と感じられるかもしれませんが、 脳卒中や心筋梗塞・心不全といった重篤な病気のリスクを下げるために大切な薬です。
血圧が下がったからといって自分の判断で中止せずに医師の指示に従ってください。

(薬剤師 石川 知樹)

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